JUN. 13 2023, 10:00AM
今年の6月に歌手デビュー10周年を迎えるトミタ栞。音楽情報バラエティー番組『saku saku』〈tvk〉の 5 代目MC に大抜擢されたことを皮切りに、2013 年に 〈エピックレコードジャパン〉から CD デビュー、4thシングル『だめだめだ』はTV アニメ『NARUTO-ナルト-疾風伝』のエンディング・テーマになったりと、コンスタントにリリースを続けてきた。コロナ禍の自粛期間中には『TikTok』に投稿したダンス動画が注目を集め、2021 年、世界ゆるミュージック協会から生まれた「ゆるミュージックほぼオールスターズ」のメイン・ヴォーカルを務めるなど、近年さらに精力的に動き回る彼女に(舞台やドラマ出演、ラジオ・パーソナリティ、モデル活動も)、この10年を振り返るロング・インタヴューを行った。6月7日にリリースされたラーメン愛爆発の新曲「ラーメンウォーアイニー」についても触れている(トミタの実家は祖父の代から続くラーメン屋)。
舞台やラジオ・パーソナリティとして活動する他、グッズやジャケットのデザインなどを自身で手掛けるなど、活動が多岐にわたるがゆえに、「自分は何者なのか?」と思い悩むこともあったトミタ栞の10年。けれどようやく、ありのままの自分を認められるようになってきたと語っていたことがとても嬉しい。というのもかつてトミタとは、バァフアウト!で約5年間に渡って散歩連載を続け、それをまとめた『トミタ栞の東京歩き本』(発売中)を作った間柄(中ページのイラストはすべてトミタが手掛けている)。様々な肩書きを持つと得てして世間からの見え方が難しいところもあるかもしれないが、トミタ栞はトミタ栞。ワン&オンリーな存在であると、久々に取材をして感じ入った。
バァフ 今年でデビュー10周年。どんな気持ちですか?
トミタ もっとできたことがたくさんあったなと、今、色々と回収しているところです。デビュー当初は18歳とか19歳で、ひたすら巻き起こる新曲のリリースや取材に真剣に全力で向き合うことで精一杯だったので、振り返ってみると、スタッフさんたちがどんな動きを裏でしてくださっていたかまでは把握できていなかったんですよね。あと、どんな仕組みで音楽が出来上がっていくのか?も知らないままで。まだまだ、自分の技術や知識が追い付いていないこともありますが、気付けたことだけでも財産だなと思っています。今は10周年に向けやりたいことで溢れています。
バァフ 本当ですね、気付けたことが大きい。
トミタ はい。何かできないことや問題や反省点があったら原因を探して、ちゃんと突き詰めて、次には直す。失敗とも向き合う強さを最近は少しずつ手にしていっている実感はあります。
バァフ デビューの時から物おじもしないし、自発的にいろんなことを発信していた記憶がありますけど。
トミタ 求められると、すっごく嬉しい人だから、周りがこういうのを求めているなというのを察知して全力でやっていた感じで。だけど「自分って何がしたいんだろう?」という部分までは向き合えていなかった。考えていなかったわけではないんだけど、それよりも求められることがまず目の前にあったから、そっちと向き合っていた時間の方が多かったのかもしれないです。
バァフ 『saku saku』の時、10代の頃って、周りから何を求められていたと思いますか?
トミタ 何だろう? 不安定さかな。素人独特の。染まっていないピュアな不安定さ。でもそれってあくまでも不安定さだから、安定したいって自分が気付いた頃には、自分にとっては不安要素でしかなくて。
バァフ 求められると応えたくなっちゃう愛嬌がトミタさんにはありますからね。ラーメン屋の看板娘だったし。
トミタ そうですね(笑)。
バァフ キラキラして見えたけど、悩みもずっとあった。
トミタ はい。しかも悩んだりもがいたりしている時の自分がすごく好きで(笑)。「何かをしたい」という気持ちが強くあるから。一番怖いのが、例えば今日この仕事が終わったら、明日はあの撮影があってと仕事が続いていくと、自分と向き合う時間がないから、目の前のことしか見られなくなっちゃう。自分がいる世界はキラキラして見えるかもしれないけど、気持ちはせかせかしていて、気持ち的に充実しきれていない感じがして。身体は疲れるけど頭が疲れないみたいな現象なのかな。今は、やりたいことが溢れていて、それに向かってどうやって進んだらいいんだろう?と悩んだり考える時間自体が自分にとってはキラキラしている気がしています。
バァフ 作詞作曲を途中からやり出したじゃないですか。あの辺りから意識が変わってきたんですか? 例えば「だめだめだ」みたいに、駄目な部分もさらけ出す、そういうキャラも出てきたじゃないですか。
トミタ はい、あの曲とラジオがきっかけですね。何だろう? 昔はバカって言われることを、恐れていて。特に『saku saku』時代の前半。でも、それが面白がられるって分かった『saku saku』時代でもあって。それだけではやっていけないと気付いたのが20代の中盤。ラジオが始まった時期でもありますね。自分はもっと賢いのかもしれないとか、誰かと比べてじゃなくて、これはできるな、これはできない、苦手なことだなと、自分の頭でちゃんと考えることができるようになってきて。勉強は苦手だけど全部ができないわけじゃないという、ある意味、自分を認めてあげることができたんです。ラジオでいろんなゲストさんと関わっていくうちに、自分は初対面の人と喋るのが得意かなとか、場の空気を和ませる素質があるかもとか、自分の良さも分かってきた上で、何か自分を解き放つじゃないけど、自信が付いて、自分をちゃんと認められるようになっていきました。
バァフ それが20代中盤くらいだと。
トミタ たぶん、そうですね。
バァフ ということは、この4、5年ですかね。
トミタ そうなんですよ、本当に最近。コロナ禍が挟まって、より自分と向き合う時間が増えたんです。今まではお酒を飲みに行く時間が多めで(笑)、空いた時間に最初はちょっと病んだというか、何をしたらいいか分からなくなっちゃった。スケジュールがパツンパツンであることが私の取り柄だったのに。そうではなくなった時、家で飲むのも好きではあったから飲むは飲んでいましたけど、それよりも、もっと時間を有意義に使えないか、そういう意識が生まれていって。「惰性で生きることはやめようかな」とコロナ禍に気付けたんです。これだけ長いこと事務所でやらせてもらっていると、まだ何かは期待されているはずだっていう、ひそかに出てくる自信と、ずっと付いてきてくださるファンの方がいたのもあって。しかもコロナ禍が明けても、その人たちがまだいてくれたということがすごく嬉しくて。失業する方も増えたし転職される方も絶対に増えている中、私はそうはならず、応援してくださるスタッフさんもいた。あと私自身、芸能という職種から気持ちが離れなかったことが全てだと思っていて。ようやくお客さんたちにライヴに来てもらえる状況になって、コロナ禍前の方が集客とかあったかもしれないけど、結果的には今、自分と自然に向き合って、しっかりと地に足をつけて10周年を迎えられそうなことが幸せで。本当にいろんなことを噛みしめています。
バァフ 自分なりに模索していて、色々と動いてはいたんだろうけど、側から見ると、お友達と遊んでいるようにしか見えない、そんな時期も乗り越えて。
トミタ (笑)求められることを全力でやるのが私の仕事だと思っていたら、例えばリリースが止まったり、ライヴを1人でやってみなよという意見が出た時に、自分が何の人なのかが分かっていなくて。エンタメの人だと勝手に思っていたから、ライヴをするという理由でお客さんを集めて、みんなで楽しいことをする、誕生日会を開くための企画を考えたりリハーサルをしたり、それが仕事だと思っていたんですけど、それだけではダメっていう時期が確かにありましたね。やっぱり、自分が何の人なのか、自分でも分かっていなかったんだと思う。
バァフ 女優もやっているし。
トミタ そうなんです。全部を全力でやっているし、やりたいのは本当のことで。でも、何か1つに決めないといけないわけではないじゃないですか。これは私のカラーが出せる仕事なのか考えながら、それが逃げ言葉じゃないかどうかを1回1回足を止めて向き合って、「これは逃げている発言じゃないよね」と確認しながらであれば、いろんなジャンルの仕事をすることもありだと思っていて。だからラジオで私を知った方がいればラジオの人でいいし、アイドルと思っている人はアイドルでいいし。何なら、ちょっとありがたいし(笑)。私を女優として知った人に対して「私は歌手なんです」という変なプライドはないし、ないプライドを無理やり作る必要もないかなというところに気付けたことが、自分のことを認め始めた時期と重なるかもしれない。バァフアウト!さんの連載が終わった後、そういう流れの考えになっていったかもしれないですね。
バァフ しかし地頭が本当に賢い人だと思うんですけど、なぜそんなに自分をバカ認定していたんですかね。
トミタ やっぱり、学年で2人しか落ちなかった滑り止めの高校に落ちているくらいだから(笑)。テストが終わると成績が下から2番目ぐらいの男子が「おい、トミタ何点?」みたいな感じだった。小学校までは優等生をやってきて、成績も抜群で、三者面談、大好きだったんです。「とにかく褒めることしかないです」と毎回先生に言ってもらえるから(笑)。だけど中学って勉強しないと点数が取れなくなってくる。特に努力せずにいけた小学生の頃とは違ったんですよね。20代前半って、まだ学生時代の自分のポジションから抜けていないし、私の場合は大学に行っていないから、大学デビューを経験していなくて。新しい自分を作るきっかけがないままデビューしてしまったんだと思います。だからなのか、例えばですけど、今は歌練習がすごく楽しくて。それまではカラオケとかリハーサルの時に爆発させるくらいだったんですが、家で歌える環境をちょっと整えて。自分の歌を聴くのが、ずっと怖かった10年間なんですけど——思ったより、自分がずっと下手だから。たぶん理想の自分が強くあり過ぎちゃって、向き合いきれず逃げていて。だけどここ最近は、そんなに酷くはないかもと思ってきて、それがモチベーションになっています。これをずっとお客さんに聴かせるわけにもいかんから。
バァフ 6月7日に配信リリースされた「ラーメンウォーアイニー」、聴かせてもらいましたけど、めちゃくちゃ力強い歌声でびっくりしました。
トミタ 確かに(笑)。こういう楽曲なんですが、歌い方を今回はあえてふざけてはいないんです。
バァフ タイトルと歌の感じが違う、と(笑)。
トミタ そうですよね(笑)。ギャップだらけの感じにしてあります。
バァフ アニメのオープニングにかかって欲しい。
トミタ 嬉しいです。イントロもキャッチーですしね。理想はカップラーメンの売り場の横でかかって欲しい。
バァフ 歌詞も書かれていますね。
トミタ はい。実家のことをここでは伝える必要があるなと思って。
バァフ ご実家のラーメン屋への愛と、ラーメン自体への愛がたっぷり詰まっていて。フレーズにユーモアもあって、とにかくラーメンが食べたくなる1曲です(笑)。
トミタ ありがとうございます(笑)。
バァフ 改めてというか、コロナを経て、自分を見つめる期間を経て、今の時代にこれからどんなことを発信していきたいと考えていますか?
トミタ たくさんありますが1つ思うのは、今、ゆるミュージックほぼオールスターズというバンド(※誰でもすぐに弾ける「ゆる楽器」を使って誰とでもすぐに「合奏」でき、音楽の楽しさを実感できるような世界を目指す「世界ゆるミュージック協会」から生まれた)の活動もしているんですけど、そのコンセプト、軸になる考え方が、世の中の「ゆる化」なんです。緩めるに化ける。いろんなことを緩めるという概念をゆるミュージックを通してやっていて。私、良く言うと完璧主義者だったんですね。完璧じゃなきゃ出せないがゆえに意見が言えないとか。だったら準備万端でいけばいいじゃんということなんですが、全部に完璧でやろうとすると、やっぱ疲れちゃって、思いもよらない崩れ方をしてしまう。それでまた落ち込む悪循環がこの完璧主義にあるなと思ったから、もちろん完璧にこなすことは大事なんですけど、緩めた考えも持った方がいいなと最近思っていて。世界ゆるミュージック協会を発足した澤田(智洋)さんの本を読んで衝撃を受けたと同時に、世の中には私みたいな人がたくさんいそうと思って。なかなかギターが弾けない人のための簡単なギターを開発したりもしているんです。ボタンを1個押すだけでFコードが鳴ったりして。
バァフ 楽器に挫折した人もやりやすそうです。
トミタ そうなんです。緩めることは何か悪いことだってずっと思っていたんですけど、それで新しいものが生まれているし、開ける世界があるから。できそうってなるまでできないと言わなかったり、ゴールが見えないと言えない、発言できない、目指せない自分がいたんですけど、段々変わってきました。自分が困った時に助けてくださいが言える大人になれるようにもなりたいと思ってきて。本当に助けてほしい時こそ、言えなかったから。プライドとかもあるのかな。完璧でいなきゃいけない自己像もあったし。だからこの活動を通して、少しでも多くの人が「緩く考えてみよう」、「緩く始めてみよう」と思ってくれたら嬉しいなと思っています。あと先々の話というわけでもないのですが、この10年間応援してくださって、コロナ禍が明けて真っ先にライヴで会えたファンの人たちが自分にとってかけがえがなくて。綺麗事ではなく、本当に大事な人たちなので、そういう方たちと一緒に楽しい人生を送れるように、お互いが楽しくなる関係性を築く活動もしていきたいなと思っています。
バァフ 素敵な考え方です。世の中にはいろんなことを緩めたいと思っている人、すごく多いと思いますよ。身体だけでなく心も凝っているからほぐしたいって。
トミタ そうですよね。私自身、都心から住まいを離れたのもゆる化だと思うんです。キツくなっちゃったんだと思う。芸能界にいる人は三茶周辺に住んでないといけないみたいな(笑)。誘われた時にすぐに飲みに行ける「フッ軽」が大事だと思っていたんですが、大事なのはそこじゃないかなって。飲みに行って交友関係を広げたりもしてきましたけど、今思うとそれよりも歌の練習をしたり自分のリハーサル音源を聴いたりする方が、やりたいことに早く近付けていた気がする。
バァフ でも本当に、20代の最後にいろんなことに気付けて良かったですよね。
トミタ 本当にそうですね。
バァフ 6月25日にはデビュー10周年ライヴもあるということで、これからも楽しみにしています。
トミタ ありがとうございます! 30歳になるまで1年を切ったこのタイミングでのライヴなんですが、すでに「30歳までにしたい10のこと」を発表してしまっているので——今年2月の誕生日ライヴで「今から20代最後の1年が始まりますよ」ということで、ステージ上で言うことじゃなかったかもなのですが、自分にプレッシャーをかける意味でもお伝えして——それも1つずつ叶えていきたいと思っています。
INFORMATION OF SHIORI TOMITA
6月25日に東京〈UNIT〉にて『トミタ栞 デビュー10周年ライブ〜トミタ祭〜』を開催する。
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