磯村勇斗の持つ表現には、どこまでの広がりがあるのだろうか? 彼の出演作を観ていると、その幅に驚くと共に、映画監督などの制作者にとって、「こういう姿も見てみたい」などの創作欲が沸々と滾る存在なのではないかと思う。今回の撮影でも、まっさらなスタジオが湖のほとりに感じるほど、静かで、それでいて熱のこもるカメラマンとのセッションを魅せてくれた。
イチ媒体の取材でさえ圧倒させる磯村の魅力、作品の制作側が抱くものは如何ほどだろう。まさしくそんな出会いが映画『渇水』にあった。2022年に公開された映画『ヤクザと家族 The Family』を本作のプロデューサーが観て、磯村に演ってもらいたいとオファーしたのが水道局員の木田という男である。木田は、主人公の岩切(生田斗真)の同僚で、彼と共に、水道料金を滞納する家庭を回り、人間にとって最後のライフ・ラインと言われる水を停める“停水執行”をしていく。暑さも増す真夏、日照り続きで給水制限も発令される中、彼らは、業務に向かったとある家で、姉妹(山﨑七海・柚穂)と出会う。
こういう作品を作ることが必要で。
そしてそれを届けることに映画の力と意義を感じます
磯村 『渇水』は、一度読んで、即決で参加したいと思った作品でした。最後に岩切が起こす、小さいけれども革命と呼べるような出来事が、僕はこの時代に必要な要素なんじゃないかと感じたんです。僕が演じた木田はどこにでもいそうな人物だと思いますが、今回はそれ以上に、テーマである“停水執行”について、岩切との価値観の違いをどう出せるかをすごく考えました。彼自身は、根の部分で「なぜ水はタダじゃないのか?」と岩切と同じ考えを持っていますが、仕事として割り切っている面がある。自分が生きていくための仕事だし守る存在もあるから。だからと言って冷たい男ではないので、水を停めることへの葛藤も見せますが、岩切と比べると、というところを意識していました。岩切は日々に疲れているというか——停水執行だけでなく、癖のある人たちを相手にしているので、疲弊しているんですよね。真夏だというのもありますし。それは一緒に各家庭を回る同僚として、横にいて、ずっと感じていました。そして、生田さんが1本、岩切としての道を歩いてくれていたので、僕は木田として、彼の道に入ったり抜けたりできたのだと思います。
バァフ 色々な人の暮らしを見る岩切と木田ですが、中でも衝撃を受けた人はいましたか?
磯村 (宮世)琉弥くんが演じていた若い滞納者は、脚本を読んでいても腹が立ちましたね。「なんでそんな態度でいられるんだ?」と。
バァフ 門脇 麦さんが演じられた、姉妹の母親(旦那が蒸発し、1人で姉妹を育てるも、自分の人生ばかりで、育児放棄気味になっている)は、いかがでしたか?
磯村 そういう環境の人たちがいることも知っていたので、意外性はまったくなくて。逆に、子供たちはこういう風にして親を失い、まだ子供なのに自分たちで生きていく選択をせざるを得なくなっていくんだということが見えて、それが苦しかったです。一方で、出来上がった作品を観てあの姉妹には強い生命力を感じました。家に2人でいる時やプールに行くシーンは、僕も映像になって初めて観ましたが、置かれている環境は貧しいのに、エネルギーがすごい。2人がいなければ岩切も変わることはなかったと思える、説得力のあるシーンでした。山﨑(七海)さん、柚穂ちゃん2人のお芝居含め、本当に素晴らしかったです。
バァフ 河林 満さんの原作小説は30年前の作品ですが、観ていても過去の話だとは思えず、むしろ今の方が現実的になっているテーマで。格差社会や貧困問題など、近年、より目にするようになった気がします。
磯村 分かります。正直、ずっと変わっていないんだろうなと思いますし、実際今でも映画のように停水執行は日々おこなわれているわけで。何かしら社会に共存できなかったり、お金の面で苦しんでいる人達がいることは、SNS等も発達して色々な情報が入ってくるからこそよく気付くようになったと思います。子供を捨てる親が存在することも、変わらずずっと同じ過ちを繰り返している、同じ問題を抱えているのだと思います。去年公開された『ビリーバーズ』という作品も、数十年前に描かれた作品ですが、公開する日に大きな事件がありました。結局何も変わっていない。そういうことを特に近年は感じます。
バァフ それでも、作品として世に出すことによって、先ほどおっしゃった小さな革命じゃないですけど、意義があると。
磯村 はい。どんなものでも、世に出る前はどれだけ影響力を持つようになるか分からないですが、こういう作品を作ることが必要で。そしてそれを届けることに映画の力と意義を感じます。取材でも、映画についてお話するのはもちろん、それ以外にも、何か発信できることがあるのだろうなと、より思ってしまいます。
バァフ 磯村さんは、以前お話した際に「役者として何ができるのか、ずっと探っている」とおっしゃっていて。「今も昔も変わっていない」と、冷静に世の中を見られながらも「この作品が何かのきっかけになることもある」と希望を強く見据えられていると思うんです。役者である自分だからこそできるなと感じることってありますか?
磯村 僕たち役者は、本当に作品の中でしか生きられないんですよね。いかに素敵な作品に出会って、その中で1人の役としてちゃんと務められるかがすべてでもあるんです。それが結果的に良い作品に繋がれば、1つの役割になると思うので、それを続けるしか道がない。役者は0から1は作れないので。でも、僕はそうじゃなく、0から1を作れる俳優になりたい。そういう意識を今持ち始めたところかもしれません。
バァフ どういうことが必要になってくるなと?
磯村 今の世の中の流れを見る力も必要ですし、もう1人の自分を置いておかなきゃいけないなと思います。主観的な意見が多過ぎると偏ってしまうので、周りの意見も受け入れること、それでいて芯を持つことが必要ではないでしょうか。
バァフ 役者の方々って誰かを生きることを生業としているわけですから、常に自分以外の誰かでいるじゃないですか。となると本来の自分とは?と感じる瞬間もあるのかなと思うんですけど、磯村さんは常に自分にちゃんと戻ってこようと意識されていると。
磯村 そうできない時もありましたけどね……(笑)。役のことだけ考えておけばいいかと、自分を放ったらかしにしておくみたいな。でもそれだと自分がダメになっちゃう気がしたので、最近は自分のことを理解してあげようとしていますね。
バァフ プロデューサーの長谷川晴彦さんは、『ヤクザと家族 The Family』をご覧になって磯村さんに今作のオファーをされたと伺いました。磯村さんに作品を支えてもらいたい、一緒に盛り上げてもらいたいという角度でオファーが来たりすることもあると思います。年齢は関係ないかもしれませんが、30代に突入し、世代が上がっていくこともあるかもで。ご自身の今の環境と、出会う作品と、考えられたりすることなどありますか?
磯村 1つひとつの作品が未来の作品に繋がっていくんだなというのは、今回の出会いもそうですし、強く感じますね。だからこそ、これは当たり前ですが——作品とちゃんと向き合わないといけないと、求められれば求められるほど一層責任を感じます。常に進化し、変化しなきゃいけないという変な焦り、焦りというか、自分で自分に変にプレッシャーをかけてしまうみたいなこともありますが。飽きられたら終わりだと思うので、飽きられないように味をね(笑)、色々と変えていきたいですね。
ジャケット(67,100yen)、シャツ(27,500yen
『渇水』
監督/髙橋正弥
原作/『渇水』河林 満〈角川文庫〉
出演/生田斗真、門脇 麦、磯村勇斗、山﨑七海、柚穂/宮藤官九郎/池田成志/尾野真千子、他
6月2日より全国公開
©2022『渇水』製作委員会
【WEB SITE】
movies.kadokawa.co.jp/kassui
INFORMATION OF HAYATO ISOMURA
公開中の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』、『最後まで行く』、『波紋』、今秋公開予定映画『正欲』に出演。また、6月15日より〈Prime Video〉にて全8話配信の『Amazon Original「ラブ トランジット」』、10月クールの『ドラマ 24「きのう何食べた? season2」』への出演も決定!
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