CULTURE

【EDITORS CHOICE】FILM『TAR/ター』 

MAY. 9 2023, 7:30PM

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文 / 堂前 茜

映画という時間芸術の最高峰と、時間を自在に操るオーケストラのコンダクター、冒頭から流れるのはエンドクレジット。トッド・フィールド監督の壮大なマジックに完敗だった『TAR/ター』はどうにも、映画を観てもらわないとその凄さが伝え辛い。

 

世界屈指のオーケストラ、ベルリン・フィルで女性として初めて首席指揮者に任命されたリディア・ター(ケイト・ブランシェット)。圧倒的な才能と外交的手腕で唯一無二のアーティストとして君臨するが、名声を守り続けるプレッシャー、新作制作のストレス、何者かの画策で直面するキャンセル・カルチャーによって次第に精神のバランスを崩していく。

 

劇中でショーペンハウアーの「雑音への感度こそ知性」というテキストが引用されるが、ターの過剰な神経質の肯定とも取れるこの発言をはじめ、彼女の傲慢さは彼女だけが作り上げたものではないのが窺える。けれど膨れ上がった自尊心と一度手にした権威を手放すのが非常に困難なのはターに限ったことではなく、また、誰がおさめてくれるわけでもない。『ブルー・ジャスミン』とはまた違った鬼気迫る狂気のブランシェットから片時も目が離せないという緊張感が続く中、唯一寛げたのは見事に上品なターのスタイリングだった。

『TAR/ター』
監督・脚本・製作/トッド・フィールド 出演/ケイト・ブランシェット、ニーナ・ホス、ノエミ・メルラン、ジュリアン・グローヴァー、マーク・ストロング、他 
5月12日より全国公開
©️2022 FOCUS FEATURES LLC.

 

【WEB SITE】
gaga.ne.jp/TAR

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