公開中の映画『長ぐつをはいたネコと9つの命』の日本語吹き替え版キャストとして、小関裕太は初めて本格的に声優の世界に足を踏み入れた。キャリアを考えると意外なタイミングではあったが——演じたワンコの声を聴いた瞬間のフィット感。むしろ小関本人の性質が、この役を表現する上では肝要だったのではと感じるほどだった(彼のインタヴュー内の発言をご覧いただくとより実感できるのではないだろうか)。本作は、賞金首のレジェンド剣士の猫・プスが9つあったはずの命が残り1つだと知り、命のストックを増やすべくどんな願いも叶える「願い星」を求めて旅に出る物語。一度は家猫として余生を送ることを決意したプスが出会うのが、猫に扮装し生きながらえてきた犬・ワンコだ。希望の持てない閉鎖的な環境に身を置きながら誰よりも勇気があるし、過去の悲惨な出来事もチャーミングに笑い飛ばす。それでいて、「人生に於いて何を選択しどう生きるか?」といった本作が掲げるテーマの1つも、ワンコはすでに心得ているかのような視点を持つ。ある種哲学的な彼の言葉は、柔らかく包み込む小関の声に乗りストレートに心に響いた。
バァフ ワンコの声が小関さんだと知っていながらも、声の響きや細かいニュアンスが良い意味で小関さんっぽくなく聴こえる箇所もあって、新鮮な驚きがありました。声色をそこまで変えられていないと思うのですが、印象が違うなと。
小関 嬉しいです。自分で聞いた感じだとあまり自分の声だとは思わなくて、「あれ? 俺こういう声もするんだ」みたいな発見の方が大きかったんですよね。今日(取材当日)たくさんの方に「小関さんらしさを感じた」とか感想をいただいたんですけど、自分の印象とはまたギャップを感じたりして面白いなと思いました。
バァフ らしさで言うと、小関さん特有の丸みのある優しいお声が存分に活かされていましたよね。ワンコのピュアさと直結する大切な部分で、小関さんが選ばれた意味を実感しながら映画を拝見していました。シニカルなユーモアや綺麗事と捉えられてしまう言葉、そのすべてがナチュラルに口をついて出てしまうのもワンコの魅力で。「面白いことを言ってやろう」とか「目の前の人を励まそう」という狙いはなく、いずれの言動もピュアさゆえなのだと思いますが(笑)。
小関 そうそう(笑)。例えば相手が言われて嬉しい言葉をワンコ自身は考え抜いて言っているわけじゃないんだけど、ポロっと放った一言が結果的に相手の背中を押していたり。冒険の途中で出会ったキティ(プスの元彼女)とかは、「良いことを言いすぎてなんだか気持ち悪い」と感じて逆に不信感があったと思うんですけど……でもそういうのって人間界でもリアルに起こることだし、相手との距離の詰め方や良し悪しなど色々と考えさせられました。人間界の縮図が上手く表現されているなって。
バァフ ちなみに、「クーン」みたいな犬の鳴き声も小関さんが?
小関 あれはちょくちょく僕で、ちょくちょくSEです(笑)。英語版の役者さん(ハーヴィー・ギレン)もそうだったんですよね。役者さんに合わせてアニメーションが作られるので、まず口の動きが完成していない状態で声を入れて、そこに絵を合わせていく。僕は出来上がったものに声を吹き込む作業だったから、0から1にする形ではなかったんですけど、その中でも「色々とやりようがあるな」と思いながら飛び込んでいきました。自分の壮絶な過去を語るシーンは、嬉しそうに「僕ってこんな経験をしてきたんだよ」と話すじゃないですか。彼は自分の体験が悲しいことだと認識していないし、むしろ「僕の話を聞いてくれてありがとう」という想いが強いから、 僕自身もアテレコをしながら自然と口角が上がっていたように思います。側から見たら悲しい出来事を乗り越えてきた子だけど、ワンコ自身は楽観的というか何に対しても真っ直ぐで疑うことをしないので。
バァフ だから、不幸話も不幸“自慢”には聞こえないというか。シンプルに見えて、知れば知るほど複雑性のあるキャラクターですよね。
小関 本当に。それこそ過去を語るシーンは、彼の複雑性が色濃く出ていたと思います。レコーディングも3回ほどしたんですが、ただ台詞を読んでいるだけにはなりたくないなと思って——台詞は軽く覚えていたんですけどレコーディングがスピーディな分、どうしても台本を持ちながら声を当てるので——映画が完成した時に、ワンコの話を聞いた人々が生い立ちをちゃんと追えたらいいなと考えながら臨みました。
バァフ プス、キティ、ワンコは生きてきた環境が異なりますし共通言語もない中、共に冒険を続けられたのはなぜだと思いますか?
小関 キティはプスを敬愛している部分もあるし「願い星」を追うライヴァルでもある。きっと関係が切れてもまた戻ってこられるような存在だと思いました。だけどプスとワンコは——プスの命は9つ目の今回が最後ですが——残りの命をいくつも控え自信満々だった時のプスがワンコに出会っていたら、上手くいかなかった気がしていて。最後の命を実感したことでプスはようやく弱さを出せた、そしてワンコと出会ったことによって少しずつ心を開いていく。キティも「プスが信頼する存在なら」とワンコを認めたのだろうし、そこで3匹の関係性がぎゅっと積み上がっていったように思います。プスのタイミングが要でもあったんじゃないかな。
バァフ 役者さんの場合は、1つの作品に向かっていく想いが共通認識としてあると思うのですが、基本的には続編作などでない限り初めて顔を合わせる方が多いですよね。そういう時小関さんは、お互いを知り歩みよるために何か行動を取られますか?
小関 昔は頑張っていたんですけど、もう頑張らなくなりました(笑)。同じ現場を過ごす、人としての信頼感や距離感などは考えたりしますけど……踏み込みすぎないことだったり相手の気に障ることはしないとか。例えば、作品の空気感に合わせてキャスト同士があえて少し距離を作っているのに、スタッフとは仲良くキャッキャしているっていうのも場合によっては誰かの気に障るかもしれないから。そこは自分なりに周りを見ながら気を付けています。もちろん交流を避けているわけではないので、来てくださる方がいれば全然ウエルカムなんですけどね(笑)。波長が合ったり仲良くなる人って何かのきっかけでポンと近付けるから、無理に頑張る必要はないかな。むしろそこに注力するよりも、目の前のことをちゃんと成し遂げる方が信頼できるなと今は考えていて。仕事とプライヴェートの境界線をしっかり引くことだったり……よくあるのが、舞台上でお芝居をしている時、お客さまに見えていない所では役者同士で変顔をしているとか。否定はしないけど僕はそういうノリができないし、やりたくないなと思ったり。なので良い具合の距離感が一番好きですね。
バァフ 何事も丁寧に真摯に向き合われる小関さんならではのご意見で、意思表明できるのも素敵なことだと思います。それから、「願い星」に向かう道中のワンコの言葉でグッときたのが、「ただ目の前にあるものを慈しめばいいんだよ」という台詞で。
小関 あれ、すごく素敵な言葉ですよね!
バァフ 様々な経験を経たからこその達観した感覚でもあるし、彼の信条を言い表しているようでもあって。「そうしなさい」ではなく「するといいんだよ」と相手に預ける感じもまた良い。これから映画を観る方は、ここの小関さんの表現もぜひ注意して聴いてほしいです。ふわっと心が軽くなるのに深みがある。絶妙でした。
小関 ありがとうございます。ワンコ自身は深く考えずただ思ったことを発言しているし、「セラピードッグになりたい」という夢もありますが、決してそこを意識して過ごしているわけじゃないんですよね。けれど、「君ならできるよ」とか「僕の居るところが君が帰るところだよ」みたいに、相手に寄り添った優しい言葉を何のためらいもなく投げかけられる。僕自身、役を演じている最中も感じましたが、完成した作品を観てワンコの言葉から得るものが本当に多かったです。根本的にワンコは、悲観視するよりも新しいものや面白そうなものに目を向けて走っていくスピードがとにかく早いんですよね。「大変なこともあるけど面白いことの方が人生多いよね!」みたいな感覚だから、限りある命を全力で楽しめる。
だいぶ昔の話になりますけど、「プロフィール帳」って流行ったじゃないですか。ワンコはきっと、好きなもので全部の項目を埋められる子なんだろうなと思います(笑)。「嫌い」よりも「好き」の方が多い。だから「目の前にあるものを慈しむ」って言葉は、結構正解に近いのかもしれないです。 悲しい物事を見るよりも、目の前のものとしっかり向き合い捉える。もしかしたらそれが彼の原点になっているのだろうし、僕もそのマインドは大事にしていきたいなと思います。
『長ぐつをはいたネコと9つの命』
監督/ジョエル・クロフォード
日本語吹替版キャスト/山本耕史、土屋アンナ、 中川翔子、小関裕太、木村 昴、津田健次郎、他
全国公開中
©2022 DREAMWORKS ANIMATION LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
【WEB SITE】
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「小関裕太 2023-2024カレンダー『fashionsnap』」が発売中。また、イヤー・ドラマ『俺のはなし。』が〈NUMA〉にて配信中。
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