「code of the film」vol.14

撮影:RYOSUKE MAEZAWA(SEPT)
文:松坂 愛
SABU
1964年生まれ、和歌山県出身。1986年、『そろばんずく』で俳優デビューを飾り、1996年には『弾丸ランナー』で監督デビュー。以降、『ポストマン・ブルース』、『うさぎドロップ』、『天の茶助』などを手掛ける(『天の茶助』では小説家デビューも)。これまで数多くの作品が国際映画祭に出品された。2018年には、永瀬正敏主演の『ハピネス』の公開が控える。
チャン・チェン CHANG CHEN
1976年生まれ、台湾・台北出身。1991年、エドワード・ヤン監督の『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』の主役に抜擢され、俳優デビュー。その後、ウォン・カーウァイや、ホウ・シャオシェンなど、中国語圏の巨匠たちの作品に次々と出演。2000年以降、大作映画にも出演。近年の出演作品は、『グランド・マスター』、『黒衣の刺客』など。
家入一真 KAZUMA IEIRI
1978年生まれ、福岡県出身。起業家。〈CAMPFIRE〉代表取締役社長。〈paperboy&co.(現〈GMOペパボ〉)〉創業社長。〈BASE〉共同創業取締役。50社以上のスタートアップ・ベンチャー投資や、渋谷〈ON THE CORNER〉の経営も。近著に『なめらかなお金がめぐる社会。』〈ディスカヴァー・トゥエンティワン〉がある。
クリエイティヴ志向の高い、監督や役者をフィーチュアする、クラウドファンディングのプラットホーム〈CAMPFIRE〉との映画連載企画。同代表・家入一真を司会に、毎号ゲストを迎え、撮影現場や映画制作について話を伺う。第14回のゲストは、SABU監督と、アート系から超大作まで、様々な作品に出演するチャン・チェン。そのチャン・チェンを主人公と想定して書き上げた、映画『MR.LONG / ミスター・ロン』が公開。物語は、任務に失敗した殺し屋のミスター・ロンが、とある田舎町の住民との交流を通し、人間味を取り戻していく、という内容である。殺し屋が屋台で料理をふるったりと、思いがけないことの連続で、そのヒリヒリした緊張感と、ユーモアさの入り交じり具合が抜群に良かった。加えて、「また明日」と誰かと明日の約束をすることや、輪になって食事をみんなで摂ることなど、人との関わりがどんどん愛おしくなる映画でもある。SABU監督とチャン・チェンの取材は、本作が『第30回東京国際映画祭』の特別招待作品ということで、同映画祭のタイミングでチャン・チェンが来日していたことにより実現。チャーミングな2人に会い、彼らのことも作品のことも、より一層ファンになってしまった。

僕、自分の作品が好きなので、観たら泣いちゃうんですよ(笑)(SABU)

人と人との距離や、コミュニケーションの描き方にロマンを感じます(チェン)
バァフ:すごく好きな作品になっているんですけども。チェンさんは、台本を読まれて、どんなところが心に残りましたか?
チェン:全部が好きだなぁと思いました。どの人物もキャラクターが際立っていて、個性的ですし。何より、僕の演じるミスター・ロンの性格がとても良かったです。男たるものはみんなミスター・ロンであるべきだと思うくらいで。一見すると冷酷に映るかもしれないけど、内に熱い情を秘めているんですよね。
バァフ:今回の作品は、最初からチェンさんを主人公と想定して作られていったそうで。
SABU:そうですね。2年前に台湾にキャンペーンで呼ばれた際に、お会いしたんですよね。その時に、「僕の作品に出ないか?」と聞いたら、すぐに承諾してくれて。そこから脚本を考え始めました。彼はクールなイメージが強いので、それをちょっとだけ壊したいなと思いながら。そこから、殺し屋という設定が浮かんだんです。まず、台湾から日本へくるというので、ナイフ使いの役にしようと決めて。あと、田舎で匿われていたというのも、割と早くに頭で浮かんでいたアイデアです。なので、昭和的な匂いのする場所を探していきました。感情がなかったのが、感情がこもった殺し屋になっていく、というイメージがありました。
家入:ミスター・ロンの人物像は、チェンさんに通じていたのですね。
SABU:そうですね。ミスター・ロンのような匂いがプンプンしますから(笑)。
チェン:そうですか?(笑)。僕、ミスター・ロンっぽいですか?(笑)。監督の方が近い気がしますけども。監督は見た目からしてもクールだし、内に秘めた熱いものなんかそのままミスター・ロンですよ(笑)。
家入:(笑)僕、チェンさんのミスター・ロンの印象があまりに強かったので、こうして今日お会いして、笑われたりする方なんだなと少しホッとしています(笑)。映画の中には、笑える要素もたくさんありましたよね。そういうシーンで思わず吹き出してしまうことはなかったのですか?
チェン:街のみなさんとのシーンでは、笑いを堪えることが多かったですね。ミスター・ロンは、日本語が分からないという設定なんですけど、実際は脚本を読んでいて内容も分かってしまっているので、そのあたりがとても難しかったです。
バァフ:撮影自体はどんな印象でしたか?
チェン:現場ではリラックスした状態で撮影に臨むことができました。僕は、演出を監督に任せるようにしていて。もちろん、自分なりに脚本を読み込み、演じたい方向性をある程度決めているんですけど。今回も、監督の指示に従い、擦り合せていくという感じで進めていきました。笑いの場面に関しては、不慣れな場面も多くて。でも、どうにかみなさんに上手く伝わるといいなと思います。
バァフ:ユーモアの要素に関しては、監督からはどんなことを話されましたか?
SABU:極端なコメディをしてほしいわけじゃない、と。殺し屋が、何が起こっているのかよく分からないままに、どんどん周りに巻き込まれていくのが面白いというか。だから、笑えるところは僕の編集で作ったり、その場の空気で笑えたりするようにしています。
家入:面白いのが、殺し屋が料理をするという要素ですよね。これはなかなか思い付かないと思いました。どこからそういう着想が?
SABU:今回、ナイフ使いなのですが、武器が包丁に変わったりするわけですよ。それ自体がアジア的で、台湾の夜市とかのイメージに繋がっていくんです。人を殺すものだったものが、人を喜ばせるものに変わっていくというのも、いいなと思ったので。考え方次第で、マイナスなものがプラスになるのが好きなんです。それに料理だけはみんなが受け入れるというか、いろんな国の料理が日本にも入ってきていますし。料理を通して、人と人との距離が近付くのが面白いかなって。あと、昭和っぽい空気を作りたかったので、何もないところから屋台を始めたり、それが幸せに感じるっていいなとも思ったんです。それって、物が溢れている今の時代では希少なことなので。
バァフ:この作品は、出会いが1つのキーワードとしてあって。お2人も、様々な出会いがあって今に至ると思うんですけれども、人生の中で特別な出会いというと?
SABU:僕は、どんな出会いも大事にしています。常にアンテナを張り巡らせているわけじゃないんですけど、ちゃんと誠実にいて、チャンスがどこにあるかを見極めることが大事だと思っていて。こうやって彼と映画祭で会ったのも何かの縁だろうと感じていますから。
チェン:中国のことわざに、みんなが一緒にテーブルを囲んで食事をするのは700年前から定められている、というものがあります。決められたご縁によって、今、ようやく集まっているということですね。だから、僕も縁とか、誰かと一緒にいるということは、いつもとても貴重なことだと思っています。
家入:作品には悲しいシーンもありますけど、映画を作る中で、ご自身の死生観が反映されることはありますか?
SABU:ありますね。『ポストマン・ブルース』のクランクイン前に父親が亡くなったんです。その時は、そこで終わりじゃない、続いているんだって思いたかったんです。それから、自分も震災の年に大きな病気になって入院したりしたんですが、その時も死をマイナスに考えないようにしました。大事な人が亡くなったらとても悲しいですけど、でも、またどこかで会えると思いたいですね。
バァフ:監督の作品からは、前に進むという部分が強くあるような感じがします。
SABU:僕、自分の作品が好きなので、観たら泣いちゃうんですよ(笑)。アホなんです(笑)。でも、それがちゃんと伝わっていたらいいなと思いますね。たくさんのお客さんに同じ感動を味わってもらいたいです。
チェン:僕、元々、監督の作品が好きで、全部拝見しているんです。監督の作品から得られる一番大きなメッセージって、人生はそれでも前に進み続けなきゃいけない、ということなんですよね。前進することを、とにかくポジティヴなものだとして考えていらっしゃる。今回の作品に関しては、感情がとても真っすぐ、強く、伝わってくるものだなと思いました。人と人との距離や、コミュニケーションの描き方にロマンを感じます。人と人との関係というのは、とてもかけがえのないものなんだと、再認識することができましたし。僕も感動しながら観ていました。
家入:最後に制作資金という面についても伺わせてください。僕らは〈CAMPFIRE〉という、クラウドファンディングのサーヴィスで、資金を集めるためのプラットフォームを提供しています。監督には、これまで低予算で作られた作品もありますよね。今後、制作と予算の関係はどうなっていくと思いますか?
SABU:僕は自分で脚本を書くというスタイルを貫いてきました。面白いものを書けなかったら、撮ることができないという状況で勝負してきたわけです。しかも、今ではオリジナルの作品にお金を出してもらうのが難しくなってきています。原作ものばかりになってきていますから。そんな中でも、少ない予算や日数で撮ったりしていて。『Miss ZOMBIE』なんて、5日で撮った作品なんですよ。結局はどうやって楽しむか?なんですよね。常に考え続けていたら、面白いことが生まれてくるわけで、お金がなくてもできる方法が見付かるんじゃないかな。だから、あまり嘆いていても仕方ないと思います。
バァフ:監督の資金集めの方法は、今どういう風になってきていますか?
SABU:僕の場合、ベルリンや台湾で仕上げたりしています。海外の映画祭とかに参加してきたおかげで、繋がりが増えて、外国のお金で撮ることが多くなってきたんですよ。だから、日本だけじゃなく、いろんな国からお金を集めて撮るのが良いんじゃないでしょうか。
『MR.LONG/ミスター・ロン』
監督・脚本/SABU
出演/チャン・チェン、青柳 翔、イレブン・ヤオ、バイ・ルンイン、他
全国順次公開中
©2017 LiVEMAX FILM / HIGH BROW CINEMA
INFORMATION OF CAMPFIRE
日本最大のクラウドファンディング・プラットフォーム。本企画の司会、家入一真が代表取締役社長を務める。11月、アーティストの活動をサポートする〈CAMPFIRE MUSIC〉を法人化。レンディング・サーヴィス「Polca」も好調。詳しくはホームページまで。
camp-fire.jp

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