「code of the film」vol.10

撮影:濱村健誉
文:松坂 愛
湯浅政明 MASAAKI YUASA
65年生まれ、福岡県出身。アニメーション監督、脚本家、デザイナー、アニメーター。〈サイエンスSARU〉代表取締役。テレビ・アニメ『ちびまる子ちゃん』では、本編原画に加え、初代オープニング「ゆめいっぱい」などの作画も担当。『劇場版クレヨンしんちゃんシリーズ』は、第1作目から設定デザイン・原画などを担当する。映画初監督作品は『マインド・ゲーム』。
家入一真 KAZUMA IEIRI
78年生まれ、福岡県出身。起業家。〈CAMPFIRE〉代表取締役社長。〈paperboy&co.(現〈GMOペパボ〉)〉創業社長。〈BASE〉共同創業取締役。50社以上のスタートアップ・ベンチャー投資や、渋谷〈ON THE CORNER〉の経営も。近著に『なめらかなお金がめぐる社会。』〈ディスカヴァー・トゥエンティワン〉がある。
クリエイティヴ志向の高い、監督や役者をフィーチュアする、クラウドファンディングのプラットホーム〈CAMPFIRE〉との映画連載企画。〈CAMPFIRE〉の代表・家入一真を司会に、毎号ゲストを迎え、撮影現場や映画制作について話を伺う。第10回のゲストは、湯浅政明監督。今回、湯浅監督に話を伺った際、「できるだけ普通に」ということに、重きをおいていると知り、改めて物作りの原点に触れられたような気がした(それでも監督の消せない“何か”が作品に表れていて、その持ち味の純度の高さも実感)。一括りに「こうである」とは言えない、それぞれに感情がある人間を、そのまま理解しようとしているとも言えるだろうか。だから、監督が手掛ける作品は、普遍的で誰にでも共有できる部分が見えるのだと思う。それは、京都を舞台に主人公・先輩の恋心を描いた『夜は短し歩けよ乙女』(以下、『夜は』)もそう。周囲に心を開くことができない少年・カイと、人魚の少女・ルーとの触れ合いを描いた『夜明け告げるルーのうた』(以下、『ルー』)もまさしく。10月18日に、『夜は』と『ルー』のBlu-ray & DVDがリリースされたタイミングで、両作品の話も踏まえ、作品作りについて教えてもらった。

みんなは一体、何を面白く思っているんだろう?と、それを考えることが楽しい

斬新なものは作らないようにしている
家入:僕らは〈CAMPFIRE〉というサーヴィスを通じて、音楽や映画などを手掛ける方々に、「クラウドファンディングで何ができるのか」を常に問い続けたいと思っているんです。予算が付かないような時、ファンの方から直接応援してもらう新たな手段として使ってほしい。湯浅監督にも、これからの映画やアニメーション制作において、クラウドファンディングという選択をどう考えることができるのか、お伺いできればと。
湯浅:以前、クラウドファンディングをやらせていただいた時、こんなに応援してくれる人がいるんだなというのを知ることができただけでも喜びでした。プレッシャーもありましたが、すごく良いシステムだなと感じましたね。もう少し規模が大きくなるなら、夢のようなシステムです。例えば、先にみんなにチケットを買ってもらって、映画を作るという感じであれば、ダイレクトに作りたいものが作れる。観てくれる人だけでペイできるなら、それが一番良いので、そういう人を探し出せる可能性のあるシステムだ、ということを感じましたね。ただ、それに頼り過ぎると怖い部分もあって。使いどころを考えなきゃいけないなとは思っています。
家入:以前、監督は、海外のクラウドファンディング・サーヴィス〈Kickstarter〉を使われていらして。対象が国内だけじゃなく、世界を見据えられていたんですよね?
湯浅:そうですね。知ってもらいやすくなるだろうという思惑もありましたし。長編のためのパイロット用として、ショート・ムーヴィーを作る資金が足りない時に、そういうクラウドファンディングがあると、次のステップへ繋がりやすくなりますね。
バァフ:映画業界って、賞を獲っても、ご飯が食べられるわけではない、とよく聞きます。さらに若い人たちになると、なかなか稼ぐこと自体が厳しい。でも、それでも良い、という人も多いと。ただ、稼がないと生きていけない、という現実があって。
湯浅:僕たちの時代は、まず食っていかなければいけない、という危機意識があって。たくさんの量を早くこなす中で、育った技術の部分がありました。今の方がクオリティが高いし、時間をかけて上手く描く人もいっぱいいると思います。でも、周りから守られている人はいいんですけど、守られていない人はどんどん大変になっていってしまう。だから、自分で自分を守るために、どうするかを考えないといけない。僕はこの分野でまず食っていくんだって覚悟を決めて、あまり好まない仕事の中にも、自分の好きなことを見付けてやっていくようになりました。その中で、必要とされる技術を手に入れて、単価も少なければ、ある程度早いスピードで描かなければと思うわけです。興味のない仕事でもやれば幅が広がり、なんとかして数をこなすうち、効果的に押さえれば良いところや、流しても大丈夫なところが分かってきて、そうすると技術も速度も身に付いてきました。結果、「一緒に仕事をしましょう」という人も増えてきて、好きな仕事もやってこれているんです。
バァフ:ご自分の強みを伸ばしていかれたんですね。監督は、映画『夜は』と『ルー』と、公開時期をほとんど空けずに手掛けられた作品があって。当時、どのような進行だったのですか?
湯浅:『ルー』の制作中に、『夜は』のお話があったんです。今は、たくさんの作品が業界で作られているので、1度集めたスタッフを1回解散すると、すぐ他の作品に流れていくんです。そうすると、1年も2年も制作している作品だと、もうそう簡単には揃わない。なので、そうならないよう、『ルー』が終わった人は、そのまま『夜は』に入れる様にしたんです。その方が続けて働こうという方はラクだと思うので。
家入:人によって、作画の向き不向きというのは特にないのですか?
湯浅:本人が「やりたい」と言えば、関係ないですね。量をまとめてやってもらった方がいいんです。そのことが全体を見ることに繋がっていくので。その人が後々、演出をやりたいとか、全体的な役職をこなしたい、と思った時に役に立つし、能力のある人ならシーンを任せることができますから。
家入:『ルー』はスピード感も含めて、物語がテンポ良く進んでいくところに引き込まれました。すごく独特なアニメーションというか。
湯浅:『ルー』のお話は数人で話し合いながら進めたんですけど、結構難航したんです。『ルー』はこの〈サイエンスSARU〉という会社にとって初めての長編ですし。それだけにしっかり作ろうと、絵とかも気合を入れて頑張ったと思います。ただ、独特さというのは、本意ではないんですが。実はできるだけ消そうとしたんです。でも、どうしても出ちゃうんでしょうね。自分では分からないところで。
家入:消そうとしても滲み出てしまうものかもしれないですね。
湯浅:アニメーションだからできるものをやろうという意識はあります。一番印象に残りやすい形でやろうともしていて。根本は変わらないので、そういうのがスタイルに出ているかもしれませんね。
家入:これは監督の本意ではないかもしれませんが、僕は監督の作品の根底に、言葉では言い難い独特な何かを感じるんです。でも、できるだけ表には出さないようにしている。そのギャップがすごいなと。「自分の作風はこうだ!」とアピールしないというか。
湯浅:僕がめちゃくちゃ売れていたら、「どうだ!」という感じだったかもしれないですね(笑)。ですが、僕が面白いと思ったことが、面白くない、という人が結構いて、ビックリした経験があるんです。それからは、みんなは一体、何を面白く思っているんだろう?と、それを考えることが楽しくなっていった。だから、受け取るのに時間がかかるような、すごく斬新なものは作らないようにしているところもあるんです。けどその中でも、毎回同じことをやるのではなく、「今度はこうやろう」と考えながら、いろんなことをやって自分の幅を広げていくのは楽しいかな。
バァフ:監督の中では、まったくの新しいものを提示するという感覚とは少し違うのですね。
湯浅:はい。特に『ルー』なんかは、既視感のある、「こういうのってあったよな」という感じで、全体を作った方がいいのかなと思ってやっていました。その方がみんな入っていきやすいのかもしれないって。
バァフ:『夜は』の方は、どういうことを考えながら作られていたのですか?
湯浅:『夜は』は、原作者の方も同じ、以前手掛けたアニメ『四畳半神話大系』〈フジテレビ〉系と同じノリで作っているんです。しかし今回は映画だし、『四畳半』よりキチンとエンターテイメントにしようとやっています。『四畳半』を作ったすぐ後に、『夜は』の企画が一度上がってなくなって。今回また長い期間をまたいで立ち上がったのですが、今でもその延長線上で作っている気分がありました。新しく、と思っても、やっぱり『四畳半』を観てくれた人のために作ったような感覚があったんです。ただ、今回は、早口を少し抑えて、逆に絵の動きの方を早くしてみようとか、絵の納まりを長時間観やすいよう、おとなしくはしてみましたね。
家入:またオリジナル長編にチャレンジという想いはありますか?
湯浅:そういうものも、作りたいと思います。もしかしたら、お金を集めるところが見つからず、最初の入り口としてクラウドファンディングを利用することもあるかもしれません。
家入:その時はぜひサポートさせてください。
『夜は短し歩けよ乙女』(Blu-ray & DVD)
監督/湯浅政明 原作/森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』〈角川文庫〉
声の出演/星野 源、花澤香菜、神谷浩史、秋山竜次(ロバート)、他
発売中
発売〈東宝/フジテレビ〉 販売〈東宝〉
※初回生産限定版には、伊東伸高描き下ろし三方背ケース・イラスト大判ポストカード、他、特典付
© 森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会
『夜明け告げるルーのうた』(Blu-ray & DVD)
監督/湯浅政明
声の出演/谷 花音、下田翔大、篠原信一、柄本 明、斉藤壮馬、寿 美菜子、千鳥(大悟、ノブ)、他
発売中 発売元〈「山田孝之のカンヌ映画祭」製作委員会〉 販売〈東宝〉
発売中
発売〈東宝/フジテレビ〉 販売〈東宝〉
※湯浅政明監督インタヴュー映像や、オーディオコメンタリー他、特典付
© 2017ルー製作委員会
INFORMATION OF CAMPFIRE
日本最大のクラウドファンディング・プラットフォーム。本企画の司会、家入一真が代表取締役社長を務める。11月、アーティストの活動をサポートする「CAMPFIRE MUSIC」を法人化。レンディング・サーヴィス「Polca」も好調。詳しくはホームページまで。
camp-fire.jp

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