「code of the film」vol.08

撮影:濱村健誉
文:松坂 愛
是枝裕和 HIROKAZU KOREEDA
62年生まれ、東京都出身。95年、『幻の光』にて監督デビュー。本作品では、『ヴェネツィア国際映画祭』で金のオゼッラ賞を受賞。近年の作品としては、『カンヌ国際映画祭』審査員賞他、国内外の数々の賞に輝いた『そして父になる』。『日本アカデミー賞』にて最優秀作品賞、監督賞、撮影賞、照明賞の4部門を制した『海街diary』などがある。
家入一真 KAZUMA IEIRI
78年生まれ、福岡県出身。起業家。〈CAMPFIRE〉代表取締役社長。〈paperboy&co.(現〈GMOペパボ〉)〉創業社長。〈BASE〉共同創業取締役。50社以上のスタートアップ・ベンチャー投資や、渋谷〈ON THE CORNER〉の経営も。近著に『なめらかなお金がめぐる社会。あるいは、なぜあなたは小さな経済圏で生きるべきなのか、ということ。 』〈ディスカヴァー・トゥエンティワン〉がある。
クリエイティヴ志向の高い、監督や役者をフィーチュアする映画連載企画。クラウドファンディングをおこなう〈CAMPFIRE〉との合同企画としてスタートしました!〈CAMPFIRE〉の代表・家入一真を司会に、毎号ゲストを迎え、撮影現場や映画制作についてお話を伺います。第8回のゲストは、是枝裕和監督。映画『そして父になる』から
4年――再び福山雅治を主演に迎えたのが映画『三度目の殺人』です。法廷を舞台に人の心理が描かれる本作は、「真実」が分からないままでも、人への裁きが下ることの恐ろしさを目の当たりにさせられる内容。そこで福山は、真実は二の次と割り切る弁護士の重盛を演じています。その重盛が弁護を担当するのが、会う度に供述が変わる、殺人の前科がありながら再び殺人を犯した三隅(役所広司)。調べていくにつれ、その三隅に、被害者の娘・咲江(広瀬すず)が誰にも言えない秘密を打ち明けていたことが判明したりと、重盛はどんどん三隅の闇に呑み込まれてしまうことに――。本当に彼が殺したのか?も分からないまま、幕を開けてしまった裁判はどうなっていくのか。今回の話は、本作のことから、監督を目指す若手に思うことなどにも発展していきました。

僕も福山(雅治)さんも、同じ謎や不安を共有したまま、1人の男と向き合っていくという形で撮りました(是枝)

バァフ:監督が今回、法廷を題材として選ばれた理由からお聞かせいただければ。
是枝:1つには、犯罪者を主人公とした映画をやりたいと思ったのがあって。一度人を殺して出所したんだけれども、もう1回殺してしまう。でも、その理由が一度目と二度目で全然違うのに、結局、前科があるから死刑になってしまう。動機のディテールが無視され、非常に機械的に死刑になってしまう、暴力的なシステムを、私たちの社会が持っていることを描きたかったんです。あと、もう1つには、4年前に『そして父になる』を作った際、脚本を作る段階で弁護士の方に、「法廷って真実を明らかにする場所じゃないんですよね」と言われたことがすごく気になっていたからです。「じゃあ、何をする場所なんですか?」と聞くと、「原告側と被告側の利害の調整をする場所なんです。真実はそこでは明らかにならない」と。でも確かにそうですよね。タイム・マシーンで犯行現場に立ち会えるわけじゃないから。特にね、最近は裁判判事って提出された資料だけで判決を書くんだって。実際の犯行現場に行ったりしないらしくて、それは余計な情報を入れないためなんだけど、弁護士の人も、「それは危ういことだ」と話してくれて。面白いなぁって。そんな要素が混ざって、今回の映画はスタートしました。
家入:作中で「真実が分かることも、おこがましい」というセリフがあったのを覚えています。広瀬すずさんが演じる咲江も、「誰を裁くかは誰が決めるんですか?」と言っていて。その言葉に集約されているなぁと思いました。最近、“ポスト真実”が叫ばれているじゃないですか。真実よりも、感情に訴えかけるニュースがネットを賑わしていて。元々、人間はそういう生き物なのかもしれないですけど、突き詰めると、「真実なんてどこにもない」ということに行き着く気がするんです。今、そんな時代を迎えていることと、この映画が、すごくリンクするなって。
是枝:そうですね。不思議とリンクしていて。
バァフ:構想が形になってきたのは、いつくらいのことでしたか?
是枝:一昨年の秋に簡単なプロットを書いて。でも、でき上がったものは全然違いました。去年の年明けくらいかな、『そして父になる』で法律監修をしてくれた弁護士さんに声を掛けて、「今度は脚本作りから一緒にやってくれ」ってお願いしたんですよ。7人くらい弁護士を集めて、弁護側と検察側と犯人1人を用意して、模擬接見というのもやって。そこでのやりとりは即興だったんですけど、実際に殺人犯と面会した時にどうするのかを見せてもらったんです。それをヴィデオで撮ったものを文字に起こして、本作りを始めて。さらに模擬法廷も去年の夏くらいにやって、そのプロセスをもとに脚本を仕上げたという感じですね。
家入:満島真之介さんが演じる弁護士の川島 輝は、たまに青臭いことを言ったりする。社会にはいろんな弁護士がいて、それぞれに倫理観や正義感を抱えているんだなと感じました。この作品はそういう人たちを丁寧に描いていて、物語を通して何かを社会的に訴えようとするものではないですよね。真実を必ず見つけ出す、という話でもないし。
是枝:そうですね。社会告発を目的とした映画というわけじゃないですね。観た人がどこにフォーカスするかで変わるかもしれませんが、そういう分かりやすいメッセージのある映画ではない。
バァフ:接見室で、重盛(福山雅治)と三隅(役所広司)が対面しながら、静かに感情の動きをお互い探り合っているところなど、前のめりについ観てしまっていました。
是枝:この映画って、撮る前は「あれ? 人が動かないぞ」と思っていたんです(笑)。接見室は座ってガラス越しだし、法廷もアメリカ映画みたいに弁護士が歩き回るわけじゃないし。座っているか、じっと立っているかだけになってしまうので、動かない中で何を動かすのかを考えなくちゃと思ったんです。ただ、本読みを福山さんと役所さんとやっていく中で、これ、接見室の映画かもしれないと思って。それで接見室を2回増やして、そこで何が変わるのかを縦軸にしようと思ったんです。それでようやく、映画の構造が見えました。現場でもお2人の芝居が練られていくにつれて、細かい感情の流れだったり、力関係の変化を最小限の動きの中で出せたので良かったと思っています。
バァフ:今回、役所さんと福山さんとは、どんな会話を重ねていかれたのですか?
是枝:役所さんが演じた三隅という男を、僕自身も100%理解しているわけじゃないんです。他者として、そういう人間を映画の中にいさせようと思って。だから、行動やその動機も分からないまま書いている。福山さんに「これはどういうことですか?」と聞かれても、「僕も分からないです」って(笑)。答えがないまま福山さんもお芝居されていて。役所さんはこちらサイドにほとんど何も聞いてこない方なので、役所さん自体が何を考えていたのか、僕も聞いてみないと分かりません。だから、僕も福山さんも、同じ謎や不安を共有したまま、1人の男と向き合っていくという形で撮りました。福山さんは不安だったと思いますよ。だって、本当に殺しているか分からないんだもん(笑)。
家入:最後の最後で、タイトルがまた浮かび上がってくる、というのも新鮮でした。見終わった後で改めて、『三度目の殺人』ってどういうことだろう、と。
是枝:タイトルだけはブレていないんですよね、最初から。珍しいですね。大体、途中でタイトルって変わるんですけど。
バァフ:映画とは少し話がそれますけれど、家入さんはクラウドファンディングのサーヴィスをやられていて。
家入:はい。〈CAMPFIRE〉というプラットフォームを運営しています。映画に関しては、昔のように大口のパトロンがドンッと資金を出して作ることが難しい時代になっているじゃないですか。そのような中で、若い監督は今後どうやって作品を作っていくべきなのか。是枝監督は、クラウドファンディングについてどう捉えていらっしゃいますか?
是枝:選択肢の1つとして、それがあることはとても良いことだと思います。今、映画って多様さがなくなってきているから。二極化してきているし。つまり、大手の配給会社と組んで、200から300の映画館を開けないと掛かったお金を回収できないわけですよ。昔だったら、全国のアート・ハウスを繋いで成立していた、中規模の興行形態というのが、ほぼビジネスとして成立しなくなっちゃって。そうすると、産業としては落ちていかざるを得ないでしょうから。ただ、まったく、そのことへの危機感を大手の人たちは持っていなくて。その時に、どうやってパトロンを育てるか?という話になるわけです。安定的に企業が映画を産業や文化として育てるんだ、という意識を持ってくれるならいいけど、そういう企業のサポートがこの国に果たしてあるのか?と思うんですよ。本業の宣伝の一環でしかないんじゃないかって。だから、そうなった時に、映画を支えるものとして、クラウドファンディングというのはありだと僕は思います。
家入:監督は、映画業界の若手の方々と交流を持つ機会は多いのですか?
是枝:制作者集団のようなものを作って、若い監督を目指している奴らと合宿をしたりしています。西川美和さんと砂田麻美さんと、作ったんですけど。そこから監督をどうやって育てていくか?というのを考えていて。今、5年目かな。上手くいけば、今年か来年、そこから1人監督が出てくると思います。あとは、〈早稲田大学〉で制作実習の授業を持っていて。そこに集まっている子たちって、「商業映画は別にいいんです、バイトして貯めたお金で好きなものを作れれば」という子が結構いたりするんですよね。どうなんでしょうね、それは。みんなYouTuberのようになっていく、みたいな。傷付かないんでしょうね、その方が。でも、そうやって誰からも批判されず、自己表現欲求だけが満たされるって健全じゃない気がする。だから、僕は周りにいる若い人間のお尻を叩いて本を書かせていたりします。
『三度目の殺人』
原案・監督・脚本・編集/是枝裕和
出演/福山雅治、役所広司、広瀬すず、吉田鋼太郎、斉藤由貴、満島真之介、市川実日子、松岡依都美、橋爪 功、他
全国公開中
©2017 フジテレビジョン アミューズ ギャガ
INFORMATION OF CAMPFIRE
日本最大のクラウドファンディング・プラットフォーム。本企画の司会、家入一真が代表取締役社長を務める。7月に開始したレンディング・サーヴィス「Polca」が好調。融資の分野でも小さな声を拾う。詳しくはホームページまで。
camp-fire.jp

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