「code of the film」vol.06

撮影:濱村健誉
文:松坂 愛
黒沢 清 KIYOSHI KUROSAWA
55年生まれ、兵庫県出身。大学時代から8ミリ映画を撮り始め、83年『神田川淫乱戦争』で商業映画デビュー。その後、『CURE』、『ニンゲン合格』、『大いなる幻影』など、多数の話題作を手掛ける。『回路』では、『第54回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞』を受賞。近年の作品は、『岸辺の旅』、『クリーピー 偽りの隣人』、『ダゲレオタイプの女』などがある。
家入一真 KAZUMA IEIRI
78年生まれ、福岡県出身。起業家。〈CAMPFIRE〉代表取締役社長。〈paperboy&co.(現〈GMOペパボ〉)〉創業社長。〈BASE〉共同創業取締役。50社以上のスタートアップ・ベンチャー投資や、渋谷〈ON THE CORNER〉の経営も。著書に『さよならインターネット - まもなく消えるその「輪郭」について』〈中公公論新社〉がある。
クリエイティヴ志向の高い、監督や役者をフィーチュアする映画連載企画。クラウドファンディングをおこなう〈CAMPFIRE〉との合同企画としてスタートしました!〈CAMPFIRE〉の代表・家入一真を司会に、毎号ゲストを迎え、撮影現場や映画制作についてお話を伺います。第6回のゲストは黒沢 清監督。最新作となるのは、劇作家・前川知大率いる劇団イキウメの舞台が原作の映画『散歩する侵略者』。不仲の夫婦、加瀬鳴海(長澤まさみ)と加瀬真治(松田龍平)を中心に、徐々に日常生活が「異変」に巻き込まれていく様が描かれる作品です。その大きなきっかけとなったのは、数日間、行方不明となっていた後、別人のようになって帰ってきた夫・真治からの告白。「地球を侵略しにきた」と。たった1つの出来事が日常を一変させてしまう可能性を秘めている、その危うさ、危機感を身に染みて感じられる本作。作品に込められた想い、監督が日常に感じていることなど、じっくりと答えていただきました。

映画らしいと感じるものが絶対にあるはずだなと信じて撮っていますね(黒沢)

バァフ:監督の最新作『散歩する侵略者』のお話から伺わせてください。原作は小説と演劇ですが、最初に知ったきっかけは?
黒沢:知ったのは7年以上前で、最初は小説から入りました。とても面白い小説だと思って読んでいたら、演劇が元になっていることを知って。それから劇作家、前川知大さん作演出の芝居を何本も見て、いつの間にか劇団イキウメのファンになっていったんです。
バァフ:ファンになる要素というのは、どういうところにあったのですか?
黒沢:そうですねぇ。日常的な状況から入って、おかしなことが起こる。でも、最初、誰も信じなくて、「バカバカしい」なんて言っているうちに、だんだん深刻な状況になっていく。イキウメの作品は、大抵そういう風に始まるんですね。舞台装置も俳優も、取り立てた変化があるわけではない。でも、巧妙に構成されていて、観ている方はだんだんと本当なんじゃないか?と思わされる。微妙な変化で、何か決定的なことが起こったと強烈に伝わる。舞台の演出の腕前もあるんでしょうね。映画でもそんなことができたらいいなと思いながらいつも拝見していたんです。
家入:映画を作る上で、これまでの作り方と違うところはありましたか?
黒沢:前川さんって映画好きなので、この戯曲もアメリカ映画にたくさんある侵略SFをベースにして書かれているんです。だから、映画っぽい要素が多いんですよ。それでも、やはり、演劇ならではの表現が至るところにあって、それをどうするかで結構悩みました。例えば、「宇宙人」という言い方。これ、舞台の上だと、「え? 君、宇宙人?」というのはメタファーを含んでいろんな意味を持たせることができる。そういう微妙な世界観の中でやれなくはないんです。でも、映画では、その辺の街角で、一般人を演じている俳優が、「俺、宇宙人です」と言うのって、常軌を逸しているというか。冗談かなって(笑)。演劇ではそうやって、「宇宙人」というキーワードを当然のように使っていくわけですが、映画で果たして使えるのか?というのが、僕にとって相当スリリングな問題でした。それと、宇宙人が人の概念を奪うというのが、映画の中で重要なこととして出てくるのですが、これも極めて抽象的と言うか、舞台だから許されるシンボリックな行為です。でも、やってしまおうと。覚悟を決めて、映画でもそのままやらせてもらいました。
家入:「映画らしさ」みたいなものって、この作品に限らず意識されたりするんですか?
黒沢:それは常に意識しています。ただ、具体的にそれは何だと問われると難しくて。でも、映画らしいと感じるものが絶対にあるはずだなと信じて撮っていますね。幻想かもしれませんが、今でも多くの人が映画館にやってくる。他のメディアだっていっぱいあるけど、人々は何だか分からない映画らしさみたいなものを、楽しみにして求めていらっしゃるんだろうと思っているんです。
バァフ:映画の中で、とても心に残るセリフがいくつかあって。例えば、「人間ってつい言葉に頼る」ということや、「何もしないでいるうちに、事態は引き返せないところまで進んでしまう」とか。
黒沢:それらの多くは、原作にあったものなんです。もっと明快な言葉もあったんですけど、映画ではそこまで明快にはしなくて。でも、裏に何か忍ばせているというか。例えば、戦争ということですよね。具体的にどことどこの戦争か?と特定するのは避けたいのですが、それでも戦争が再び起こってしまいそうな危機を正直、僕は感じていて。僕だけじゃなく、世界中の多くの人が感じていることなんだと思います。この『散歩する侵略者』の戯曲でも、宇宙人という形でそれをかなりハッキリとメタファーで表していて。戦争への危機、戦争という匂いが漂う映画になっていれば嬉しいなと思っています。
家入:インターネットって、黎明期には「世界中の人が繋がって、平和で愛に満ち溢れた世界が広がるんだ」という理想があったんですよね。でも、SNSが発展してみんなが繋がり始めると、極端な思考を持った人同士が固まって、他者を攻撃するような状況も生まれてしまった。概念みたいなものに縛られて愛を失って、極端な方に寄っていくというか。映画の中で起こっていることは、そうした現実と非常に似ているなと感じました。
黒沢:そうなんでしょうね。言葉の力ってすごく怖いというか。誰かがある表現を思い付くとワーッと広がっていく。こんな攻撃の仕方があったんだって。
家入:言葉にインパクトさえあれば、デマでもいいんですもんね。映画では、人々が概念から解放されて、ある意味幸せを掴んだように描かれていると思いました。
黒沢:概念を奪われると人はどうなるのか、これはなかなか難しい問題です。イメージとしては、それまでその人が何となくこだわっていた物が、頭からすっぽりと抜け落ちる感じでしょうか。映画の中ではどちらかと言うと縛られていた事柄から解放されると言うか、割と良い方に変わっているんですけど、どっちに転ぶかはその人次第という。
バァフ:この作品は、キャストの若い方のお芝居も、引き込まれる部分でした。
黒沢:人間ではない設定ですから(笑)、真面目に考えると大混乱するような役だったと思うんです。でも、それをいたって真面目に演じてくれて。僕も大して説明できていないんですけど、思い切って最大限の力を出してやってくれましたね。
バァフ:役者の方から監督が刺激を受けたりすることも多いですか?
黒沢:しょっちゅうあります。概念を奪うというシーンが何ヶ所かあるんですけど、どんな風にやればいいか悩んでいたんですね。最初の場面で出番だったのは、松田龍平さんと前田敦子(鳴海の妹・明日美役)さんだったんです。それで、お2人にちょっと相談して、「額に指をピッと当てるとか、何か動作を加えてみてもらっていいですか?」と言ったら、軽々とヒョイとやってくれたんです。概念を奪われると、こういうことが起こるんだなと僕も掴めた瞬間でした。
バァフ:本作の映画のお話からは少し話がそれますが、司会の家入さんはクラウドファンディグの事業をおこなっていらっしゃって。そのことについても伺えればと。
家入:監督は今まで様々な予算の映画を撮られてきたと思いますが、クラウドファンディグというシステムはどう思われますか?
黒沢:ちゃんと考えたことがないのでうかつなことは言えないのですが、一人の力では実現できないことを実現するというのは基本的には素晴らしいと思います。ただ、映画を例に挙げると、権利という問題が気になりますね。映画を作って、お客さんに観てもらって、「あぁ、良かった」で終わらないというか。その後の売り上げはどうなるか?とか、作った後の権利はどうなるのか?とか想像しちゃいますね。クラウドファンドで作った作品って、その辺の処理を間違えたらいけないというか。例えば、作った映画がアメリカで爆発的にヒットしてめちゃくちゃ儲かったとした時、そのお金はどうするの?という問題が起こったらめんどくさいですよね。処理の仕方を分かっている人が、上手く作品の権利関係をまとめてくれれば、その素晴らしさをみんなに納得してもらうことができると思います。
家入:確かに、海外では権利配分の問題も起きていますからね。誰かフロントに立って、関係者を上手くまとめてくれると良いんでしょうね。権利はもちろんクリアにしなければいけない点ですが、まずは制作の段階で、若いアーティストが十分な資金を得られない現状を何とかしたいなと。音楽や映像、様々な市場が縮小する中で、彼らを応援する仕組みを作りたい。僕らとして何ができるかを、常に考えていかなければと思いますね。
黒沢:今、クラウドファンドは上手くいっているような気がするんです。お金を募る時の企画も嘘がないというか。それを悪用されると嫌ですね。そこは倫理の問題ですから、キチンと防いで、上手く持続して、より大きなものになっていけばいいなって思います。
『散歩する侵略者』
監督/黒沢 清
原作/前川知大『散歩する侵略者』
出演/長澤まさみ、松田龍平、高杉真宙、恒松祐里、長谷川博己、他
全国公開中
©2017『散歩する侵略者』製作委員会
INFORMATION OF CAMPFIRE
日本最大のクラウドファンディング・プラットフォーム。本企画の司会である、家入一真が代表取締役社長を務めている。7月からはレンディング・サーヴィスを開始。融資の分野でも小さな声を拾う。詳しくは下記ホームページまで。
camp-fire.jp

このページの先頭へ戻る