「code of the film」vol.05

撮影:濱村健誉
文:松坂 愛
廣木隆一 RYUICHI HIROKI
54年生まれ、福島県出身。映画監督。82年『性虐!女を暴く』で監督デビュー。その後、ピンク映画を手掛ける。03年『ヴァイブレータ』にて、第25回ヨコハマ映画祭監督賞など数多くの賞を受賞。他、『余命1ヶ月の花嫁』、『雷桜』、『軽蔑』、『さよなら歌舞伎町』、『娚の一生』など、様々な作品を手掛けている。
家入一真 KAZUMA IEIRI
78年生まれ、福岡県出身。起業家。〈CAMPFIRE〉代表取締役社長。〈paperboy&co.(現〈GMOペパボ〉)〉創業社長。〈BASE〉共同創業取締役。50社以上のスタートアップ・ベンチャー投資や、渋谷〈ON THE CORNER〉の経営も。著書に『さよならインターネット - まもなく消えるその「輪郭」について』〈中公公論新社〉がある。
クリエイティヴ志向の高い、監督や役者をフィーチュアする映画連載企画。クラウドファンディングをおこなう〈CAMPFIRE〉との合同企画としてスタートしました! 〈CAMPFIRE〉の代表・家入一真を司会に、毎号ゲストを迎え、撮影現場や映画制作についてお話を伺います。第5回のゲストは、廣木隆一監督。自身の作家デビュー作となった、同名小説が原作の映画『彼女の人生は間違いじゃない』が公開中です。物語の舞台は、震災から5年後の福島県。主人公は、週末になると仮設住宅で父親と2人で暮らす福島を離れ、高速バスで渋谷へと向かう金沢みゆき(瀧内公美)です。そこですることは、デリヘルのアルバイト。福島と東京を行き来する日々の中で、みゆきは何を感じ、どこを居場所とし、どう歩むのか――。特別な出来事ではなく、普遍的な、誰にでも起こりうることとして描かれた本作品。観ているうちに、自分の人生と照らし合わせられ、今をどう生きるか?について強く考えさせられます。今回は、その作品のことを中心にお話を伺ってきました。

それぞれの人生、答えがすぐに見つかるわけじゃない(廣木)

バァフ:本作品の原作の小説をお書きになったきっかけから伺えますと。
廣木:きっかけは、11年3月11日の震災です。あの頃、『RIVER』という秋葉原の殺傷事件を題材とした別の映画を撮っていて。そこに地震が起きたので、とりあえず現地へ行ってみようと。撮れるか撮れないか分からないけど、風景を見てみようと思ったんです。それからですね。どこかでそこにいる自分の感情的なものを映画にしたい、というのが出てきたんです。すぐに書き出したわけじゃないんですけど、ぼんやり考えていたんです。そのうちに福島の映画やドキュメンタリーとかたくさん出てきて、じゃあ、自分なりにも……と。でも、こういうのって映画になりづらいんですよね。企画的になかなか通らないんですよ。それで小説にしようと思ったんです。
家入:この映画『彼女の人生は間違いじゃない』を拝見させていただいたんですけど、とても素晴らしくて。他の作品も含めて、廣木監督が描かれているのは、弱さを抱えている人間だったりしますよね。良い意味で、主人公たちは弱さを受け入れていて。そんな人間らしさが映画を通して伝わってきました。
廣木:自分はおそらくできないから、映画の中でそういうのを描きたい、というのはありますね。強くないし、弱くもない人間はいっぱいいると思うし、その両方を描いていきたい、というのは常に思っています。
家入:そのように考えるようになったのは、震災が影響しているのですか?
廣木:基本的にはそれ以前からですね。震災の影響に関しては、風景の部分で、というか。やっぱり津波がきて、家が流されたり、壊されたりして、人の気配が全然なくなった風景の前に立った時の、その風景は言葉とか映画を越えていくんですよね。それを映画にした場合、どうやって感情を移し込めるのかなって。
家入:僕も実は、福島には何度も行っているんです。向こうでは、夜になるとスナックみたいなところに出掛けて、地元の方と話したりするんですね。そこで1つだけ特に印象に残っている言葉があって。その女性は、当時、津波の被害を受けた場所にいたそうなんです。彼女は助かったんだけど、道路を一本隔てて、向こう側にいた同級生は亡くなってしまった。それ以降、何で自分だけ生き残ったんだろう?とずっと考え続けていると。そんなことを教えてくれたんです。「それでも生きていくしかないんだろうな」と言っていたのが、強く残っていて。
廣木:そうですよね。すごく切ない。だから僕ら第三者からすれば「いいじゃん。それでも生きているんだから」と言いたいけど、そんな簡単にはもちろん言えないわけで。それはすごく感じます。だから、映画でやれればなって。直接、「頑張れ」と言うのではなくて。僕ね、震災以後、1本だけ『こどものみらい いん ふくしま』というショート・フィルムを撮ったんですよ。その時の子どもたちの元気さや強さというのにもすごく影響を受けました。
バァフ:あと、今回の作品は、セリフが少なく、風景などの要素が多くなっていますよね。
廣木:小説って言葉じゃないですか。小説を書いている中で、言葉を重ねないと作品にならないという経験をして。なので、映画では言葉じゃなくて、また別の絵や風景、音楽とか、そういうものをメインにできないかなと考えたのが一番大きいと思います。
バァフ:震災以後、映画とはどういうものか?と、原点に改めて立ち返って考える時間は増えましたか?
廣木:映画とは……『RIVER』の時に被災地で撮った映像を見た人が、「これはその時の自分の記憶や感情の記録になる。それは良いことだと思う」という話をされて。あぁ、なるほどなって。映画って、こういう役者がいて、こんな風に考えていて、今の時代を生きてる人が試行錯誤しながら撮っている。時代の記録という部分も持っているよね、という風には思うようになりました。
家入:『さよなら歌舞伎町』も今回の作品も、長距離のバスの移動が作品の中で象徴的な意味を持っていた気がします。
廣木:僕はね、映画で一番好きなのはロード・ムーヴィーなんですよ。単純に旅をしているアメリカ映画やフランス映画が好きなので。人間がどこかへ移動していくって、希望も悲しみもあって、基本的に好きなんですよね。
家入:その時の表情が印象的でした。
廣木:ぼんやり外を見ている時の人って、希望に向かっているか絶望しているか、どっちかなんですよね。「無」になって眺めていたりするわけで。それってすごいなって
バァフ:そういうシーンで特に感じることなのですが、どんな感情があっても、監督の作品では普通のものとして描かれるというか。不器用さとかもどかしさも、肯定しているイメージがあります。
廣木:結局、みんな大なり小なり不器用なんだと思いますよ。僕、少女漫画を原作にした作品を撮っていたりしますけど、少女漫画も不器用以前のもので。そこにあるのは、自分の気持ちを素直に言えない人たちの姿なんです。でも、それは大人になってもみんな一緒で。僕もね、めちゃめちゃ不器用に生きているので。器用に物事をホイホイ考えられるタイプじゃないんです。
バァフ:石橋を叩いて渡るタイプですか?
廣木:石橋を叩いて、割ってから渡らないタイプです(笑)。誰かが渡ってから、自分も(笑)。
バァフ:映画では官能や、少女漫画の原作からの作品など、様々なジャンルでご活躍されているので、そういうタイプとは意外です。
廣木:僕ができないからでしょうね。だから、映画の中では、「石橋を叩かないで渡ってごらん」って。「渡った後の責任は持つよ」という感じなのかもしれないです。渡った先に何があるか、もしかしたら絶望があるのかもしれないけど、そこで立ち止まらないで、さらにもう一個橋を渡らせる。そういう風にしたいなって思っています。それぞれの人生、答えがすぐに見つかるわけじゃないし、焦って自分の答えを見つけなくていいんじゃないか?というメッセージでもありますね。
バァフ:そう考えると、家入さんは起業していろんな挑戦をされていますよね。
家入:僕はあまり難しいことを考えず、思い付いて勝手にやっちゃう感じです(笑)。
廣木:いや、それはそれでいい(笑)。
家入:今、一番力を注いでいるクラウドファンディングは、とても伸びています。例えば、産業が小さくなりつつある音楽の分野では、ミュージック・ヴィデオやレコーディングの費用を集めるために活用されています。映画の場合、製作費の規模感が大きいので、資金すべてを集めるのは難しいところもありますが、それでも少しずつ実現しています。大きなパトロンを1人見つけるのではなく、その作品や監督、俳優陣に興味がある方々からお金をいただいて、映画を撮る。監督は、こういった新しい映画の作り方をどう思われますか?
廣木:映画も管理する組織がちゃんとしていれば、僕はどんどんやればいいと思います。映画って作って広げていかなきゃいけないので、それを利用しつつ、ネットワークも使って公開までできれば嬉しいなという気がしますね。入り口も出口も増えていくし。
家入:そうですね。そこが大事。
廣木:ネット配信もいいし、劇場は劇場でやればいいし。監督によっては「ネット配信は嫌だ」という人もいるんですけど、それはそれで別のシステムでやればいいし。管理がちゃんとしていればいいわけで。音楽は今、世界中の人が聴くわけでしょ?それとたいして変わらないなという気が僕はしていますけどね。
バァフ:監督が今後、映画化したいなと思う原作は何かあったりしますか?
廣木:池澤夏樹さんの『アトミック・ボックス』です。原発の話なんですけど、良い小説なんですよ。映画化できたら面白いなと思います。
『彼女の人生は間違いじゃない』
監督/廣木隆一
原作/廣木隆一『彼女の人生は間違いじゃない』〈河出書房新社〉
出演/瀧内公美、光石 研、高良健吾、柄本時生、篠原 篤、蓮佛美沙子、他
全国公開中
©2017「彼女の人生は間違いじゃない」製作委員会
R-15
INFORMATION OF CAMPFIRE
日本最大のクラウドファンディング・プラットフォーム。本企画の司会である、家入一真が代表取締役社長を務めている。7月からはレンディング・サーヴィスを開始。融資の分野でも小さな声を拾う。詳しくはホームページまで。
camp-fire.jp

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