「code of the film」vol.03

撮影:KIYOTAKA HAMAMURA
スタイリング:(永瀬)渡辺康裕(W)
ヘア&メイクアップ:(河瀨)桑本勝彦 (永瀬)遠山美和子(THYMON Inc.)
文:松坂 愛
(永瀬)ニット(159,000yen)、ストール(41,000yen)、Tシャツ(37,000yen)/以上、ANN DEMEULEMEESTER (Pred PR tel.03-5428-6484) ※すべて税別
河瀨直美 NAOMI KAWASE
奈良県出身。監督。1997年劇場映画デビュー作『萌の朱雀(もえのすざく)』で、『カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)』を史上最年少で受賞。2007年『殯の森(もがりのもり)』では、同映画祭の審査員特別大賞グランプリを受賞。CM演出、エッセイ執筆などジャンルにこだわらず表現活動を続けている。
【official『twitter』】@KawaseNAOMI
永瀬正敏 MASATOSHI NAGASE
宮崎県出身。俳優。1983年のデビュー以来、国内外100本近くの作品に出演し、数々の賞を受賞。待機作は、8月26日公開のジム・ジャームッシュ監督の映画『Paterson』。写真家としても活動し、20年以上のキャリアを持つ。映画『光』内でも、永瀬が撮り下ろした写真が多数使用されている。
家入一真 KAZUMA IEIRI
1978年生まれ、福岡県出身。起業家。〈CAMPFIRE〉代表取締役社長。〈paperboy&co.(現GMOペパボ)〉創業社長。〈BASE〉共同創業取締役。50社以上のスタートアップ・ベンチャー投資や、渋谷〈ON THE CORNER〉の経営も。著書に『さよならインターネット - まもなく消えるその「輪郭」について』〈中公公論新社〉がある。
クリエイティヴ志向の高い、監督や役者をフィーチュアする映画連載企画。『バァフアウト!』と、クラウドファンディングをおこなう〈CAMPFIRE〉との合同企画としてスタートしました! 〈CAMPFIRE〉の代表・家入一真を司会に、毎号ゲストを迎え、撮影現場や映画制作について、挑戦してみたい映画などについてお話を伺います。第3回のゲストは、河瀨直美監督と永瀬正敏。映画『あん』でもタッグを組んでいた2人が、次に届けてくれたのは奈良を舞台とした映画『光』。『あん』で初めて、視覚障碍者向けの音声ガイドを作った際、その表現方法の素晴らしさを感じた河瀨監督が、「音声ガイドを仕事にする人の映画を作る」とメモした一行から脚本を手掛けたそう。物語は、永瀬演じる視力を失いかけたカメラマン・中森雅哉と、水崎綾女演じる、映画の音声ガイドが仕事の尾崎美佐子との出会いから展開していきます。人生でもっとも大切なものを失った人のその先、身近でそれを目にしていた人のその先とは——―。本映画の話をする際、気持ちが込み上げるのをこらえながら話す永瀬、そして、それをそばで支えるように温かく見守る河瀨監督。彼らとの会話は、映画の続きでも観るような言葉の重みと深さがあり、また『光』への愛にも満ち溢れていて、胸の奥がギュッと熱くなり続ける時間でした。

自分の今はもう永瀬に戻っているじゃないですか。それがすごく……嫌なんだよね。(永瀬)
観終わった後、「すぐに奈良に行きたい」と言ってくれて(河瀨)

バァフ:『光』を観ていると、その映画の世界の中に入りこむような感覚がありました。
河瀨:図らずもですね。視覚障碍者の方に音声ガイドのシーンに出演していただいたんですけど、脚本になかったことをおっしゃられたんです。「私たちは映画を平面のスクリーンで観ているのではなく」と言った、あのくだりは脚本にはない言葉なんです。彼女が普段の経験の中で感じていたことで。映画を観ている時は、いつの間にか主人公たちと同じ空間に自分もいて、その大きな世界の中で生きているという。それは、私たち晴眼者の方が忘れている感覚なんじゃないかな?というのがあったんです。そこをこの映画を観てくれている人たちが気付き、全編を通して、自分もその世界の一部になりえているようなものになればいいなと思って構築していったんです。
バァフ:何かを失ってしまった方の方が、より多くを知っていたり、気付けたりしていて。改めてそこを実感しました。永瀬さんは、先ほど初めてこの映画を観られたばかりで。今はどういう気持ちが湧いていますか?
永瀬:うーん、これはね、上手い言葉が見つからないだけなので、誤解をしないで聞いてもらえると嬉しいんだけど、自分の遺作を観ているみたいでした。というのは、僕は(中森)雅哉として生きていて。すべてをそこに置いてきたんですね。河瀨組をぜひ体験してほしいんですけど(笑)。そうすると、分かってもらえると思うんです。ここで生きているので、他に余計なことはいらないんですよ。もうちょっと噛み砕くとすると、自分の記憶の中で鮮明に覚えていることも、鮮明に覚えていないことも、昔のアルバムを1ページ、1ページ、開いていって、「あぁ、これ、そうだ」と感じるようでした。写真自体は色褪せたり、傷ついたり、破れたりしているんだけど。でも、ここにいるという感じですかね。ちゃんと言葉にできなくて申し訳ないんだけど。きっと、まだずっと雅哉のままなんですよね。でも、自分の今はもう永瀬に戻っているじゃないですか。それがすごく……嫌なんだよね。
河瀨:観終わった後、「すぐに奈良に行きたい」と言ってくれて。
家入:監督のこれまでの作品を観ていても、自分自身の過去や人生とか、そういったものと向き合う人たちの物語というのを共通して感じていて。そう言った意味で、永瀬さんも、今回雅哉になることで、自分自身と向き合うということがあったのかな?と。
永瀬:めちゃめちゃありました。今回は、30何年前、映画に初めて出演した時に共演した藤 竜也(重三役)さんともご一緒させていただいて。その藤さんに向かって、シャッターを押すんですけど。それが顔じゃないんですよね。背中を撮っている。で、また河瀨さんの撮る背中はたまらないものがあって……。ごめんね、まだ客観的に話せなくて。でも――この作品は、僕が生きている意味の原点でした。
バァフ:絶望と希望と、その2つがあることによって、苦しい気持ちが湧くというか。雅哉も、少し見えるからこそ、苦しくて。
河瀨:その人の命を奪うような状況の中で、まだ希望が少し見えているという。少しだけ見えている状態というのは、人が何かに対して執着しているということでもあって。執着ほど、人間を汚くさせてしまうものはないと思うんです。その葛藤の中で、何か新しいものを見るには捨てるという形しかなくて。
バァフ:監督ご自身の体験として、何かに執着をしてしまうことって……?
河瀨:いっぱいありますよ(笑)。けど、たぶん、子どもを授かってから、自分のこだわりや執着をどこかで捨てても、次の希望があるんだ、ということが少し分かるようになりました。それは人と人との関係もそうだと思うんですけど。私もすごく人に執着してきたし、その人と絶対一緒に居続けたいということがあったんですけど。でも、それが次の出会いを阻んでいることも、きっと、あると思うので。自分であり続けた方がいいと思います。その人のために生きているわけじゃないから。
家入:僕も、執着や嫉妬とかも含めて、ありとあらゆる感情があると感じますけど、結果、自分が辛いので、なるべく執着しないようになりましたね。自分と他人に優しくあろうとすると、寛容になれたというか。
河瀨:ものを作っているから、形にしたいし、残したいし。たくさんの人に見てもらいたい、評価してもらいたい、とかいっぱいあるけど、その欲望って、究極は何もないということなんじゃないかなという。目指すところは“無”じゃないですか(笑)。
バァフ:その方が自由になれるのかもしれないですね。あと、永瀬さんご自身も、雅哉も、写真を撮る方で。そして、永瀬さんのおじいさんも、そうだったんですよね。
永瀬:そうですね。おじいちゃんは、街の写真館のオヤジだったんです。戦後にね、人に騙されてカメラを持っていかれちゃって。雅哉とは少し違うけど、そこからカメラを持てなくなってしまったんですけど。だから、シャッターを押せなくなったところと、雅哉がカメラを夕日に向かって投げるところはおじいちゃんもそういう心境だったのかなと思って。あと、普段も、シャッターを切る時には、おじいちゃんと一緒に切っている気がとてもします。おじいちゃんが大好きだったから。やっと写真の話できるのにな、と思って。幽霊でもいいから会いたいですね。
バァフ:特別な思いがあるんですね。最後に、クラウドファンディングのお話も伺えればと。
家入:監督は過去に映画『殯の森』で、クラウドファンディングに近いことをおこなわれていて。
河瀨:「ひとコマもがり」ですね。
家入:すごく先進的だなと思ったんです。クラウドファンドというものより前の話ですよね。
河瀨:だいぶ前です。10年前。
家入:ああいった形で、一般の方々から少しずつ資金を集められて。全国からでしょうけど、最初は奈良の方々が支援されたと思うんです。そういうコミュニティ型で映画を作るという考え方って、すごいなと思ったんですよ。
河瀨:あの時は、自分を育ててくれたおばあちゃんで、母に当たる人が認知症になって。で、私の子どもが生まれたばかりだったんです。でも、映画が撮りたくて、撮りたくて仕方がなくて。まずはフランスが出資を決めてくれたんですけど。日本でプロデューサーを見つけることができなくて、「じゃあ、自分がプロデューサーになろう」と思ったんです。
家入:映画を1本撮るというのは、予算的にも大きい話ではあって。でも、それまでは声をあげられなかった人も、今は声をあげられる時代にはなっている。そういった中で、映画を作る際の、資金集めも含めたプロデューサー的な動きはこれからどうなっていくのかな?とは考えているんですよ。
河瀨:映画って、映画館で上映されないとダメじゃないですか。でも、予算の兼ね合いで、映画館で上映できない作品が結構あるんですよね。作るまでは必死で頑張ったんだけど、公開ができないというのがあるので。そこが何かしらもう少しスムーズになればいいなと。
永瀬:僕も、クラウドファンディングにはお世話になっていて。オムニバス映画(『ブルーハーツが聴こえる』)なんですけど、それが完成して、公開しようとした時に、制作幹事会社さんがダメになってしまって、公開できなくなったんです。それをクラウドファンディングでみなさんに協力していただいて、やっと公開できるようになったんですよ。
河瀨:活用次第で、上手く形になっていくんだとは思うんですけど。人をちゃんと説得して、その人のお金を投資してもらわなきゃいけないわけだから。何日かごとにちゃんと新しいニュースがアップされているとか、そのプロジェクトの進行状況がちゃんと見えてくると、信頼して自分の1万円を出そうかなと思えることに繋がるんじゃないかな?と。その手間って割と結構大変なので。
家入:そうですね。魔法の杖みたいなものではないですしね。
河瀨:でも、やり方次第で、本当にいいシステムだとは思います。
『光』
監督・脚本/河瀨直美 出演/永瀬正敏、水崎綾女、神野三鈴、小市慢太郎、早織、大塚千弘、大西信満、堀内正美、白川和子、藤 竜也、他
〈新宿バルト9〉、〈丸の内TOEI〉他、全国公開中
©2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE
INFORMATION OF CAMPFIRE
群衆(crowd)から資金集め(funding)ができる、日本最大のクラウドファンディング・プラットフォーム。本企画の司会である、家入一真が代表取締役社長を務めている。他、詳細は下記ホームページまで。
camp-fire.jp

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